『吉兆つれづればなし』
高級料亭『船場吉兆』がこんな結末を迎えるなんて思ってもみませんでした。
私が吉兆という料亭があることを知ったのは、10代の時、『暮らしの手帖』に連載されていた”吉兆つれづればなし”を読んだのがきっかけでした。
この連載は、吉兆を創業した湯木貞一氏によって書かれたもので、自分はまだまだ洋風の料理にばかり興味を示した年ごろでしたが、それでも、湯木氏がどれほどの神経と熱意をその料理に注いでいるかが十分に伝わってくる内容で、毎号欠かさず読んだものでした。
”あの時の料理はこういう裏方の作業があって実現した”というような事も書かれており、一番のおいしさと、安全を実現するために、「まさか、それほどの!」というほどの時間と労力が割かれているのでした。
とても穏やかな調子で続く話ではありましたが、料理や器に対する美学、飽くなき好奇心、知的な文章、”一流の人”を感じた事を覚えています。
今回、吉兆にまつわる事件を聞くたびに、この湯木氏のつれづればなしを思い出し、何だか寂しい思いでおりました。
本当に美味しいものを、心から美味しいと思って食べて欲しい、という一人の料理人の気持ちは『吉兆』という名前やうつわだけでは、やはり難しいのですね。
改めて感じた次第。
結局、一度も口にする機会はありませんでしたが・・・
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